スタニスワフ・レムコレクション「ソラリス」を手に入れる。
早速読む。そして読み終わる。
ハヤカワ版とだいぶ違った印象を受けた。
それはレムの「完全な真空」「虚数」の訳も手がけている
沼野充義氏が訳者解説でも書いている通り、
ソラリスの海のより細かな描写が大量に補筆されているせいだろう。
これは、シュルレアリスムが我々に示したのとは別のやり方で
SF世界の超現実が我々の現実と連続していることを示そうとしたものであろう。
あくまでレムの「ソラリス」は絶対的な他者との遭遇の物語である。
その未知の絶対性の故に現実と乖離しがちなところを
我々の側に繋ぎとめておくための重要な布石なのだ。
単にタルコフスキーのように懐かしさへの回帰、道徳性といったもの、
あるいはソダーバーグのようなラブロマンスのようなものを
この小説のテーマとして置くのなら不要な箇所ではあるかもしれないが
(実際、タルコフスキーの「惑星ソラリス」では、
この膨大なソラリス学についてはほとんど触れられることはない)
これはあくまで、意思疎通が不可能であると言う点において
「絶対的」である他者に対し、違和感を持ちながらも
あくまで人間は開かれているべきだ、というレムの信念に重きを見るなら
やはり重要な箇所であると言うべきなのだ。
ハヤカワ版のソラリスを読んだ人もそうでない人も、
是非読んでみてください。自信を持ってお勧めする一冊。
<追記>
別にタルコフスキーの「惑星ソラリス」が悪いと言うわけではない。
あれは俺の見た限りでもっとも映像が美しい映画の一つである。
あくまでレムとタルコフスキーが、この小説に何を持たせたかったか、
その解釈の違いだけの話。美しいものは美しいのですよ。