表記について思うこと。
「とんかつ」という言葉をぼくは何気なしにひらがなで書いているのだが、同時に「トンカツ」「豚カツ」「豚かつ」という表記も並行して存在している。しかしとんかつ屋で、ひらがな以外の表記で「とんかつ」としているお店は、少なくともぼくの記憶にはない。このねじれについて少し考えてみる。
googleで「とんかつ」と検索すると約5,290,000件と出る。同じく「トンカツ」は約1,270,000件、「豚カツ」約254,000件(「もしかして」で「とんかつ」と出る)、「豚かつ」約51,200件である。とするとやはり「とんかつ」とひらがなで表記するのがメジャーなのかと思うと、この検索結果の上位はとんかつ屋かここを含む食べ歩き系サイトである。ということは、専門家(という言い方が正しいのかどうかはよくわからないが)がひらがな表記をするということが言えると思う。対して「トンカツ」ははてなでの登録単語に、「豚カツ」ウィキペディアのそれとなっていることから、これら表記もかなりメジャーであると考えられる。
ではまず、なぜこのように表記が揺れるのかを考えてみたい。そもそもフランス語のcoteletteという言葉がとんかつの語源であり、これは子牛や豚などの骨付きロース肉のことである。豚のコートレット(カットレット)イギリス風がポルトガルを通じて日本に入ってきたときに(ちなみに浅草に「リスボン」というとんかつ屋さんがある)「とんかつ」といつしかなったものである(詳しくは岡田哲『とんかつの誕生 ―明治洋食事始め 』(講談社選書メチエ)など参照)。まぁ当然のように西洋料理であることから、カタカナ表記というのは肯けるものである。これが「ひらがな」に移ったということはどういうことを意味するか、というのがおそらくここでの論の肝になるのだろう。ぼくは歴史言語学を全く知らないので、全く憶測の域を出るものではないのだけど、洋食であった「トンカツ」が和食の「とんかつ」へと変わっていったという考え方が一番素直であるように思う。そうであればまたさらに、どこの店が最初にひらがな表記の「とんかつ」を始めたのか、というのも調べなくてはならないだろう。このように洋食から和食へと、ほぼ完全にスイッチした料理というものもなかなかないだろう。ウェイター/ウェイトレスさんがとんかつを運んでくるなど、想像すらできない。だからこそ、ひらがな表記の「とんかつ」をお店の側は使うのだろうし、それに意識せずとも準拠する形で食べ歩き系サイトの人たちはひらがな表記を使うのではないだろうか。
ただしかし、カタカナ表記の「トンカツ」は昔の名残としてあるだけなのだろうか。あるいは「豚カツ」や「豚かつ」は? これについてはまた、先に挙げた調査するべき事項と共にこれ以降検討していきたい。ほんとにやるのかどうかはわからないけれど。