初代タイガーマスクこと、佐山聡について。
あの幻惑的なプロレスは、もはや芸術としか言いようがない。
そう、獣神サンダーライガーが空手家が道場破りに来た時に言ったあのせりふ、
「あいつらはプロレスを汚している。俺のプロレスは表現であり芸術なんだ。」
芸術的であるプロレスを日本で語る際に、初代タイガーマスクがもっともふさわしいレスラーであることは疑いようがない。
謎めいたマスク、軽い身のこなし、寝技のかけ、返しのすばやい上に技がいかにかけられているかを見せる技術、さらにはデビュー戦、ダイナマイト・キッド戦のフィニッシュで見せた、高速且つ美しく円弧を描き、つま先がぴんと立った、あのジャーマンスープレックスホールド。
そう、ギリシャの時代からスープレックスこそがレスリングにおいての至上の美しさであった。現在残されているギリシャ時代のレスリングの絵は、そのほとんどがスープレックス技である。高円寺在住の「人間風車ビル・ロビンソンの検証によると、現在で言えばサイドスープレックスやツームストーンパイルドライバーなどの技にかなり近いものであるという。あるいは、ギリシャ時代でもっとも人気の高かった種目はオルト・パレ、立ち技限定で三回投げた方が勝ちというルールの種目であったらしい。
そう、今も昔もレスリングにおいては、美しい投げ技こそがもっとも感動的且つ美しい、芸術的な瞬間であるのだ。哲学者にしてレスラーであったプラトンは言う。「寝技ばかりの試合や、動きの鈍い試合はつまらない」と。
佐山タイガーはこのプラトンの言葉に忠実に、われわれに美しいプロレスを見せてくれるのだ。あの驚異的な身体能力、おそらく日本のプロレス史上最高のものであろうと思われるが、それによって支えられる華麗な空中技や退屈でない寝技の応酬、そしてやはり決め手はジャーマンスープレックスホールド。
プロレスのこれに興奮しないで、いったい何に興奮しろというのだ!
美しい投げ技を、俺に見せてくれ!!!